事例研究 | 広告]
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事例の件名 | ケーススタディ: 暴言で周囲の理解が得られず、発達障害と診断される |
状況や現象 | Mさん、男性33歳。大学卒業後、IT関係の営業に一環して勤務している。
しかし、お客様の評価がばらばらで、「対応が早くていいです」「がんばってくれている」と言ってくださるお客様と、「頼んだことをすぐ忘れて納品手配も放置した」「こっちが顧客でお金を払っているのに、暴言で文句をいわれた」などとクレームになるお客様とがいた。
時には、スマホから電話をお客様にかけてくるのだが、無言電話で、「がさごそ」と雑音が聞こえることもあり、クレームになったこともある。
それなりにがんばっているのだが、社内での評判は悪く、ときどき「居づらいなあ」と思うこともしばしばで、実は転職回数もこの会社で4社目である。 |
本人が困っていること | 周囲から理解されない, すぐ忘れる, 落ち着きがない, 頭が真っ白になる
悪気はなく、まじめなのだが、さっきまでやっていたことを忘れたり、落し物や探し物を年中しており、財布や身分証のような大切なものまで、すぐなくしたりする。打合せでも、さっきまで話していた議題を忘れて、議長から、「なにかMさんは質問や提案はないの」と聞かれると、頭が真っ白になって、無言になったり、どもったりする。
人によっては、がさつで、動作が不器用に見えたり、あちこちに気が散ってしまい、まとまった仕事ができません。整理整頓が苦手な人もいます。並列になにかオーガナイズされたことをするのが苦手で、書類1枚提出を先延ばしにして、放置したりして、事務スタッフに怒られたりします。
1年ほどたつとだんだん職場に居づらくなってきてしまうので、転職回数が多く、生きづらさをかかえています。一方で、自分がなにかメンタルヘルスケアが必要とは思っていない人も多いので、当人が気付かないこともあります。 |
周囲(上司・同僚・家族等)が困っていること | 指示したことができない; メモも取らないか、取っても実行しない; 失敗を報告しない、看過するなど; 挨拶、謝罪、お礼なども言わない; すぐ忘れる; いちいち丁寧に指導説明しないと仕事や社内規程を理解していない; 言葉をごまかす; たびたび物を失くす; デスクが非常に乱雑; 多動性
一般常識のある上司や同僚視線で見ると、仕事の仕方を教えてもすぐ忘れたり、メモはとっているものの見返さない、失敗について始末書を書かせようとすると「僕のせいじゃない」「始末書を書くと減給されるのか」などと暴言が出たり、自分の失敗を認めない、つっこんだ質問をすると、時にはごまかす、勝手な対応を取るなど、上司や同僚から見ると扱い辛いスタッフである。上司と営業同行したときは、(気持ちが散るので)遅刻したり、逆に1時間以上前について、喫茶店でさぼっていたりしていた。
営業担当であるのに、お客様が多忙でアポを延長依頼してきたときなどは、「時間の無駄ですから、御社とはもう付き合いませんから」などと、勝手に暴言を吐いて電話を切るなどをして、上司が後から、謝罪にいったりした。
こうなると、業務指示ができなくなり、仕事の成果がでてきません。それどころか、先輩からゆずられた顧客のアカウントを暴言や信頼性損失で、失ってしまうことになりかねない。
ほめて育てても、逆に図に乗ってしまうなど、職場のトラブルメーカーになりがちです。一方、声がでかく、威圧的に相手を従わせることがあるので、会社ではそれを「リーダーシップがある」などと勘違いすることもあります。実際は、そのようなことはありませんので、管理職とするには厳しいでしょう。暴言を吐かれた周囲スタッフのケアのほうが重要になったりします。 |
考えられる病気の可能性 | ADHD(注意欠如多動性障害); 発達障害 |
当人や周囲がやったことがいいこと、解決のヒント | 上司がメンタル系セミナーを受講したときに、扱いづらい部下だと思っていたら、特徴の多くが日頃のMさんの言動にいくつも該当するため、産業医に相談した。産業医のほうから、当人に発達障害の可能性もあるため、精神科受診をすすめた。最初、「僕がそんなはずない!」などと憤慨、抵抗していたMさんであるが、いくつか指摘をうけるとその通りだと思いはじめたため、発達障害を扱う精神科に行き、専門の試験を受けた結果、最終的にADHAと診断された。
Mさんの場合、当人に自覚症状がないためと、大人になると多動性は一見収まってみえることもありますので、周囲のほうが「おかしいな」ということになりがちです。
上司が家族などと相談して、専門医や産業医に行くように促しましょう。ただし、夫婦そろってや親子そろって同じADHDの発達障害である可能性も高く、促しても逆切れする人もいます。客観的な事実を記録しておき、指摘するようにして、カウンセリングに誘導します。
配偶者がADHDがまったくない場合、結婚記念日を忘れたり、出勤時に持ち物をたびたび忘れたりして、当人についていけず、離婚になることもあります。 |
備考 | 職種転換で異動できる場合は、してあげるのも手です。しかし、ニッチなビジネス展開をしている小企業では、雇用しつづけるのは厳しいこともありますので、再訓練を支援してやり、別の仕事に転職したほうがよいこともあります。
また、あまりに暴言で、他のスタッフを困らせる場合は、社内処罰規定に照らし合わせて、公平に一定の懲罰的な処分をするしかありません。
心療内科、精神科の中でも発達障害が得意な病院に、通院治療、グループ活動などで社会復帰をめざすのがよいでしょう。
遺伝ではありませんが、3,4歳頃からすでにADHDの傾向(たとえば、教室の机でじっと授業をうけられないや、部屋中を勝手に駆け回るなど)がみられるため、小学校など幼児教育のうちに、本来は特別な指導や訓練をして、将来社会生活をできるようにしてあげるのがよいでしょう。
ただ、Mさんのように、発達障害はここ20年ほどでわかってきたメンタルヘルス問題であるため、30歳頃になってから、転職を繰り返したり、まじめなため主任などに昇格してから、部下を傷付ける発言をしたり、自己本位な言動が増えてからわかることもあります。ある意味、病気ではなく、特性であるため、気分を抑える薬などはありますが、一生飲み続けなければならず、周囲に迷惑をかけないような適職につくことと、グループ訓練などをするのが一番でしょう。
また、「生きづらい」という点から、うつ病になったり、アスペルガーとADHDの両方の特性をもっていたりすることもあり、非常に複雑です。
根本原因は、画像解析などにより、神経生物学的な障害として認められるようになりつつあります。前頭前部、 尾状核、淡蒼球、小脳虫部が健常児と比べて小さいといわれています。
家族との関連性が高い、養子や双生児研究から遺伝要因の関与が高いといわれています。それ以外では、一部には、脳の感染・外傷など後天的原因によるものがあります。このため、親子での受診や生育時期の問診などが重要です。 |